「育苗・植林」
私が子供のころ、杉や檜の苗を育てる「育苗」の仕事が、家の手伝いとして当たり前にありました。
実家の畑で育てた苗は、1年ごとに違う畑に植え替えていきます。というのも、山で木が育つには自然条件が厳しく、それに耐えられるように少しずつ環境を変えながら、強く育てていく必要があったからです。
3年ほどかけて育てた苗は、ようやく山に植えられるくらいにしっかりした姿になります。2年で出荷することもありましたが、その場合はまだ若く、価格もあまり良くはありませんでした。やはり3年かけて育てた苗のほうが、見た目も、根の張り方も、全然違っていましたね。
山への植林は、晩秋から初春にかけて行います。寒さの厳しい季節に、背中いっぱいに苗を背負って山の上まで登り、一人で1,000本の苗を、一日かけて丁寧に植えていく。あれは本当にきつい仕事でした。でも、苗を植え終えた山を見下ろすと、不思議と気持ちが落ち着くというか、「自分が何か大きなものに関わっているんだ」と、そんな実感がありました。
木というのは、一朝一夕には育ちません。何年も、何十年もかけて、じっくりと太く、まっすぐに成長していく。
手間も時間もかかるけれど、それだけの価値がある。
私たちが取り組んでいる家づくりも同じです。
木の持つ力を信じて、自然の声に耳を傾けながら、人の暮らしに寄り添う住まいを、これからもていねいに形にしていきたいと思います。